神鳥の卵 第11話


「神鳥の卵?」

それは何なのだろう?
スザクは周りを見渡すが、ロイドも、セシルも、咲世子も、それが何か判らないという顔でC.C.を見ていた。

「この世界には存在しないはずの卵だ。本来であれば、この世には存在してはいけない卵と言うべきか」

確かに、あんな卵が普通に存在していたら問題だ。
割れた殻は光となって消えてしまったし、何より卵の中は眩しいほどに光輝き、中を見ることさえ叶わなかった。暖かくやわらかな光が渦巻いていた卵は、今考えても現実のものとは到底思えないほど神秘的な美しさだった。
今ここにルルーシュがいなければ、夢や幻だったのだと断言できる光景だ。

「ルルーシュは、確かに資格を持っていた。だから、神鳥の卵を授けられた」

C.C.は優しく目を細めながらルルーシュの髪を梳いた。
ルルーシュは疲れ果てているため目を覚ます気配はない。

「資格?」

C.C.だけが納得したような顔をしてるが、聞いている側には何のことだからさっぱり分からなかった。ロイドでさえそういう顔をしているのだから、自分の理解力が足りないせいではない事は、スザクにもわかっていた。

「C.C.、神鳥とは一体どういう鳥なんですか?」

さっさと教えて下さいよ。
ロイドはじれったいと言いたげにそう尋ねた。
それがわからないことには、話も進まない。

「神鳥・・・。この世界では多くの呼び名を持っているとても有名な・・・赤い鳥だ」

多くの名を持つ赤い鳥。
現実には存在しない卵から孵る鳥だというのに、有名だという。
そんな鳥存在するのだろうかと、全員が首を傾げた。

「誰もが一度は耳にしたことのある鳥だよ。---鳳凰、あるいはフェニックス。火の鳥と呼ばれることもある」

C.C.は淡々とした口調で名前を上げていった。
どれか一つぐらい、知っているだろう?
彼女の眼はそう言っていた。

「それって・・・」

確かに聞いたことのある。
現実には存在していない神話上の鳥。
多くの壁画や絵画にも残され、その姿をかたどった像も数多く作られている。
C.C.は視線をすっとスザクに向けた。

「・・・そう、朱雀とも呼ばれているな」

どきりと、心臓が跳ねた。
戦争によって学ぶことを奪われたスザクではあるが、自分の名の由来と父の名の由来は知っていた。
自分と同じ名を持つその鳥は、中華連邦では有名な四神獣。
そして、それらの鳥に共通するものは・・・。

「他にも様々な呼び名があるし、厳密にはその鳥達は別物とされているが、その根となるものは同じだ。・・・不死鳥。その血、その肉、その卵は、不老長寿、あるいは不老不死の霊薬と言われている」

聞いたことがあるだろう?
C.C.は口角を上げそう言った。

不老不死。

その単語にハッとなり、全員がC.C.の顔を凝視した。
普通であれば、不老不死など夢物語だと一笑されるのだが、ここにいるものは全員、目の前にいる少女が不老不死で、数百年の時を生きていることを知っていた。
何度死んでもその体は蘇生し、何百年と生きようともその姿が変わることはない。
人の理から大きく外れた異形の者。
神の意志によって生み出された人ならざるモノなのだ。

神鳥は深紅の炎を纏った不老不死を司る、鳥。
赤い、鳥。
C.C.はその手を自らの額に当て、その前髪をかきあげた。

「そう、これが神鳥だ」

そうして示されたのは、彼女の額で赤く輝く紋章。
コードを持つ者の体に刻まれる、不老不死の証。
ルルーシュの瞳の中にも宿っていた、ギアスとコードを示す紋章。
言われてみれば、その紋章は赤い鳥が羽を広げた姿にも見える。
実際に瞳に宿るギアスの紋章は、よく見ると時折鳥が羽ばたくかのような動きを示す。
特にギアス発動時にはその動きが活発になり、ルルーシュの場合、ギアスを使えば瞳の中から赤い鳥が羽ばたき飛び立つ。そして、相手の瞳に飛び込んで、その能力を行使するのだ。ルルーシュが光情報だろうというだけあり、光の速さで飛び立つため、誰の眼にもその姿は認識されない。
だが、間違いなく赤い紋章がその瞳のなかで息づき、動いていた。
その紋章こそが、神鳥なのだとC.C.はいう。

「・・・それが神鳥ですか・・・なるほどねぇ」

ロイドは真剣な表情のまま、すっと目を細めた後、ルルーシュを見た。
そして、薄っすらと赤みを指している羽根を丹念に調べ始めた。

「ルルーシュは神鳥・・・いや、コードを継承出来るだけの器に成長していた。ギアスの成長だけではない、その精神もまた王にふさわしいまでの成長を遂げていた。だからこそ、授けられたのだろう、神鳥の卵を」

あの日、あの場所で、一つのコードがその宿主を失った。
宿主である人間が神の意志により消滅したことで、宿っていた不死鳥もまたCの世界へと戻っていったのだ。

だが、コードは不老不死。
数が減ることのないもの。
減ってはいけないもの。
人の体に宿ることができれば、再び現世に降り立てる。

では、Cの世界に戻された神鳥はどうやって現世に戻ればいい?
誰に授ければいい?
この100年余りの時の中で、コードを継承しておらず、それでいてコードを継承できる器まで育ったのはルルーシュとマオのみ。
そして、その精神を王の器まで育てたのはルルーシュのみ。
だからルルーシュは卵を授けられたのだ。
誰が授けたかなど聞かなくてもわかる。
コードとギアスをこの世界に生み出したもの。
死んだルルーシュに干渉できるもの。

それはただ一人。
Cの世界であり集合無意識。
つまり、神。

「そう結論づけた理由を、教えてもらえませんか?」

ロイドは少しでも情報が欲しいと、C.C.に尋ねた。




神鳥。
神の使徒が飼う、赤い鳥。
不老不死の力を宿した、不死の鳥。
神の使徒は、不死鳥をその体に宿している。
宿主である使徒が死ねば、その体を不死鳥が蘇生させ、永遠の時を生かすのだ。

「シスターが語り聞かせてくれた話がある」

その話の意味が、今までずっとわからなかった。
だが、あの話がギアスとコードの話だというならば。
このルルーシュの状況を示している話だとするならば。

「もしかしたらコードの本当の姿の話だったのではないかと、私は考えている」
「それって、どんな話なんですかぁ?」

ロイドの質問に、C.C.は細かい所はあまり覚えていない、と言った後、遠い昔、人であった頃を思い出しながら話した。

「この世界には、神鳥と呼ばれる不老不死の鳥がいる、という話だ。たしか・・・神鳥は卵を少し変わった場所に産むんだったな」

---この世界には神様に仕える鳥がいるのです。

その鳥は、赤く輝く不死の鳥。
その鳥は1度に2つの卵を産み落とします。
そのため、卵を産む場所は2つの巣穴がある場所でなければいけないのです。

「おそらく、その巣穴は人の眼球を指していたのだろう。両目がある人間にギアスを与えることができる、という意味だと思う」

---孵る卵はまず1つ。

孵った鳥は、親鳥と同じ赤い姿をしていますが、親鳥より遥かに小さいのです。
その鳥は、不死の力を持たず、代わりに神の力を一つだけ宿しているのです。
その鳥の神の力はとても強く、今の巣穴では二羽孵化することは出来ません。
二羽孵化した時、その巣穴は二羽の力に耐え切れず壊れてしまうのです。
その鳥は、対となる鳥が孵化できるように、巣穴を神の力で作り変えはじめます。
時間を書けてゆっくりと、巣穴に神の力で満たすのです。
力の満ちた巣穴で対となる小さな神の鳥が孵化します。
二羽の小さな神の鳥は、その巣に親鳥が舞い降りる時を待っているのです。

「ギアスは成長し、やがて両目にその力は宿る。そしてその時、ようやくこのコードを受け継ぐ器となる」

---親鳥が舞い降りた時、二羽の鳥は番となり、一つの卵を産み落とします。

虹色に輝くその卵を前に親鳥と番の鳥は、その身を炎に変えると、輝く卵をその炎で包みます。そして炎は卵へと吸い込まれ、跡形もなく消えてしまいます。
その場に残るのは、番の鳥が神の力で変化させた巣と、一つの輝く卵。
卵だけとなったその巣は、外界からの攻撃でいとも容易く破壊されてしまいます。
その時の衝撃で卵は孵化し、不老不死の力を持つ神鳥が産まれるのです。
神鳥は自らが産まれたその巣に不老の力を流すことで再生させると、その巣に留まり新たな子を産むための新たな巣を探すのです。

「たしかそんな話だったと思う」

なにせ数百年前の記憶だし、そんなにまじめに聞いていなかったから、細かい所は忘れてしまったと、C.C.は肩をすくめていった。
だが、ルルーシュを見た瞬間に、この神鳥の話を思い出した。
そして番の鳥をギアス、親鳥がコードと置き換えて考えてみたのだ。
神の力を宿すギアスという名の卵を人に産む事が出来るのはコードを持つ者のみ。
そしてその卵を孵せるのは王の資格を持つ者のみ。
最初は片目にその印が現れるが、その力が成長させると両目に印が現れる。
番の赤い鳥をその身の内で育て、十分に成長した時、親鳥を宿す資格を得る。
古い巣から新たな巣に移動した親鳥、つまりコードは、卵へと還り一度眠りにつく。
そして新たな巣が破壊・・・つまり人としての死を迎えた瞬間に孵化し、その人間の体を不老不死へと作り変える。

「番の鳥が産み、親鳥と番が宿った虹色に輝く卵が、神鳥の卵だ」

C.C.の説明に、スザクは眉を寄せ唸った。

「その話がコードとギアスを指していたとしても、その卵がルルーシュの卵だって話にはならないんじゃないかな?」
「結論を急ぐな。この話には続きがある。もし、何らかの理由で神鳥が住む巣が、神鳥の力を持ってしても再生できなかった場合、神鳥は神の国へ還るという。そして、その神の国で新たな巣にふさわしい場所を探し、その資格をもつ巣を見つけた時は、親鳥は自ら新たな卵を生む。番ではなく、直接神鳥となる卵を産むんだ」

そして、その新たな巣にその卵を収め、炎となってその卵に宿るのだ。

「・・・その新たな巣が、ルルーシュだと?」
「ルルーシュはコードを受け継ぐ資格を得ていた。シャルルとマリアンヌが消えたあの場所でな」

そう、ルルーシュはあの時、その資格を得た。
最初一羽だった赤き鳥が二羽となった。
そして、コードを宿していたシャルルは不老不死の力がありながら消滅した。
シャルルが持っていたコード、神鳥はCの世界へと還ったはずだ。
神の世界へ還った神鳥。
神鳥を受け継ぐ器を持ったルルーシュ。
その2つが揃っていた。
Cの世界へと還った神鳥は、ルルーシュを新たな巣に選んだ。

---ルルーシュは卵が何かを知っていた。

孵化すれば自分は不老不死となり、再びこの世で目を覚ます事になる。
それをルルーシュは望んでいなかった。
だからいつまでも卵は孵化すること無く、ルルーシュの腕にあり続けたのだろうか。
その卵を放棄すれば別の者が卵を与えられるかもしれない。
魔女の苦しみを知っているからこそ、手放すことも出来なかったのではないだろうか。
だが、その卵はスザクの手に渡ってしまった。
ルルーシュを取り戻したいと、再び会いたいと願うスザクの手に。
恐らくそれも、神の一手。
卵を強制的に孵化させるために。

「だが、本来の方法で孵化できなかった神鳥は、本来とは違う形を取る。その姿は深紅ではなく、純白に、僅かな赤みを帯びた姿だという」

その言葉に、皆の視線は眠るルルーシュへと向かった。
僅かな赤みを帯びた、白い羽がパタパタと揺れ動く。

「な?このよくわからない話をコードとギアスに置き換えると、なんとなくルルーシュの状況がわかる気がしないか?」

本来は番から生まれた卵に、親鳥と番が宿り神鳥となる。
だが、その過程を踏まなかった神鳥は、不完全な状態で孵化した。

「・・・じゃあ、ルルーシュの背中の羽は・・・」
「あの仮定のまま話すなら、神鳥の翼だろうな。ルルーシュの体は火葬し、海へ散骨したから既にこの世には無い。Cの世界にある意識だけでは巣にはなれないため、アダムのように神の欠片と神鳥の卵を使い、Cの世界にあるデータを元にルルーシュの肉体に似せて再構築したと仮定するしかない。・・・たしか、この状態の神鳥は、とても弱いと言っていた気がする」

だからルルーシュ自身が蘇生した体ではないから生き返りではないし、生まれ変わりとも違う。神鳥のための巣として神が作った新たな器。神鳥の卵から産まれたのであれば、人の姿をかたどった神鳥というべきだろうか。
こんなことなら真剣に話を聞いて憶えておくべきだったな。とC.C.は呟いた。

「なかなか興味深い話ですねぇ。不完全な神鳥と、不完全な宿主。そんな話が残っているぐらいですから、その後の話もなにか残っているんじゃないんですか?」
「どうだったかな・・・なにせ古い話だから良くは覚えていない。だが、今はまだ不老不死ではないから、ルルーシュは成長するはずだ。そしてそれとともに神鳥も完全な姿へと成長する・・・はずだ」

最終的には神鳥とその巣は完全な状態になるという結末だったはずだからな。

「・・・随分と不確定要素の多い話ですが、つまり、陛下は羽根が生えているだけで、普通の赤ん坊と同じように成長すると考えていいって事なのかなぁ」
「その辺りは時間とともにわかるだろう。神鳥が完全な状態となれば、その背の羽は消えるはずだ」

なにせ、神鳥は紋章となって初めて完全な状態となるのだから。

「では、毎日記録を取りに来ないといけませんねぇ」

うきうきと、何処か楽しげにロイドは言い、セシルも楽しげに頷いた。
実験材料にする気じゃないだろうな。
思わずC.C.は二人を疑いの眼差しで見つめた。

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